空き家マンション増加の実態に迫った文献が登場した
都市郊外(地方都市では都市部含む)の団地や分譲マンションにおいて、近年空き家物件が増加しつつあるようです。 空き家物件が増えつつあるというのは私がこれまで多数の管理組合様と日々ご相談させていただく経験の中でも否応なく感じていたことですが、こうした私の認識に裏付けを与えてくれる文献がこのほど出版されましたので、ここで少しご紹介させていただきたいと思います。 「空き家急増の真実 放置・倒壊・限界マンション化を防げ 米山秀隆著 日本経済新聞出版社」です。
「限界マンション」とは
この中では、建物が老朽化し、空き家率が増え、管理組合が機能しなくなったマンションを「限界マンション」というややセンセーショナルな表現で呼び、それが高齢化社会やマンション建物自体の老朽化の進展に伴って深刻な問題になりつつあることを、具体的なデータに基づいて分析し、管理組合内部にとどまらず社会全体にとって今後大きな問題となりうることを警告しています。 「限界マンション」の表現は、いわずとしれた、人口が減少してコミュニティを維持することが困難になった集落を指す「限界集落」という言葉のアナロジー(類例)でしょうが、事態の切迫感を感じさせるものですね。
限界マンションの具体的な問題点
限界マンションにおいては、管理組合が機能せず、管理が行き届かなくなるため、外観(景観)の悪化、防災・防犯機能の低下、ゴミの不法投棄や火災(放火含む)の増加、不審者の侵入等などの問題点があると、同書において具体的なリスクが指摘されていきます。
著者による老朽分譲マンションの再生策の提言
同書では、このような老朽団地・分譲マンションの限界化・スラム化による問題点の解決策の一つとして、ファンドを活用した老朽分譲マンションの買い取り→賃貸化というスキームを再生策の一つとして提言しています。 この中で、REIT(不動産投資信託)の活用やそれに対する公益目的からの公的支援の必要性にまで言及していることは、再生策としてもかなり踏み込んだものといえ、空き家物件の増加を食い止めるという(それはそれで重要な)目的からは相当の説得力があるといえそうです。
著者の提言の実務上の問題点
しかし、著者も同書の中で触れなければならなかったように、この再生策は、一定の利回りの見込める空き家物件を保有する団地・分譲マンションが対象となって初めて現実的に利用できるものですから、中古リノベーション物件に対して比較的需要の高い都市部の団地・分譲マンションに利用が制限されるのではないかという疑問は持たざるをえません。 また、そもそもの問題点として、空き家化を防止して団地・分譲マンションを賃貸化した後には、ファンドという大区分所有者(しかも非現住区分所有者)が管理組合内部に生じることになるので、利害関係の大きく異なるファンド側と現住区分所有者側とで管理組合内部の意見調整をどう行うのか、あるいは現住区分所有者と占有者(賃借人)との意見調整をどう行うのか、という管理組合運営上より本質的な問題についての議論は、いよいよ待ったなしになるのではないでしょうか。 こうした問題に対してどのように対処してゆくのかについては、管理者管理制度の導入、各種総会議決要件の変更等、様々な手段が考えられるところでしょうが、これについての国土交通省や日管連などの議論はまだまだ緒についたばかりといわざるをえません。 現場対応に追われている私にも汎用の効くような妙案はまだ思いつかないのですが、みなさんはいかがでしょうか。
以上