先日11月5日、法制審議会の部会は、大規模災害で被災したマンションについて区分所有者の8割(5分の4)以上の同意で取り壊せるという「被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法」(通称被災マンション法)の法改正中間試案を公表しました。
参考URL http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=300080101&Mode=0
被災したマンションにおいては従来その復旧は区分所有者の4分の3以上、建て替えには5分の4以上の同意が必要とされていましたが、取り壊しとなると区分所有者全員の合意が必要と考えられていました。というのも取り壊すとマンション自体がなくなってしまい、区分所有者間の区分所有関係がなくなってしまいますから、これは民法上の「処分」にあたるということになり、共有者全員の同意を要するのが大原則だからです。ところが、これではマンションが被災して区分所有者のほとんどがとりあえず「取り壊したい」と考えているときでも、ほんの少数の区分所有者がこれに同意しないばかりにそれすらままならず、ジリジリと時間ばかりか経過しマンション住民の復興が遅れ・・という事態の発生が懸念されていたところです。
そうしたところで昨年3月11日に東日本大震災が発生しました。被災マンション法は、政令で適用を受けた大災害にのみ適用されますが、東日本大震災では、被災マンション法の政令適用は行われませんでした。
いずれにしても、今回東北で被災したマンションは、これを取り壊すには区分所有者全員の同意でこれを行わざるをえませんでした。報道によればこのようなマンションは少なくとも宮城県で5棟に上っているそうですが、取り壊しをためらう区分所有者やなかなか連絡が取れない区分所有者など、色々な問題が発生していたのではないでしょうか。管理組合内部での意思形成のご苦労と大変さがしのばれますが、被災から1年半ほどでそこまで漕ぎ着けたというのは、ある意味幸運なことなのかもしれません。
こうした事態を受けて法務省も腰を上げたのでしょう。今回の中間試案の公表となりました。改めて、今回公表された試案の骨子は下記の通りです。
① 被災(災害で重大な被害を受けた)マンションの取り壊しを、各区分所有者の保有する床面積を基準とし、5分の4以上の同意で決めることができる、
② その後更地となった敷地の売却についても、敷地共有持分5分の4以上の賛成で決めることができる。
②のように既に更地となった土地を敷地共有者の多数決で売却できるなどという処理は、共有財産の処分に関して共有者全員の合意を要するとする民法の大原則に対するかなりドラスティックな修正といえそうですが、今後起こるかもしれない首都圏直下型地震や東南海トラフ地震などでマンションが被災した場合、迅速にマンション住民の生活復興へと動けるようにと先手を打ったものといえ、評価できると思われます。今後の懸念は、実際にこの中間試案が法律として成立して具体的な適用を受けることになった際、やはり前に挙げた民法の全員合意の大原則が強行法規にあたるなどとして持ち出され、中間試案の内容の無効を主張する区分所有者が出てくるでしょうか。そのような事態が発生しないよう中間試案の趣旨がよくマンション住民の皆様含む国民の方々にうまく浸透し理解されてゆけばよいなと思います。
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