平成26年4月16日の東京高等裁判所判決が、滞納管理費を回収する目的で管理組合が行った法的措置に要した弁護士費用を滞納区分所有者が負担すべき旨判断しました。
これまで管理費の不払いは、管理規約といういわば契約に背く「債務不履行」にあたると位置づけられてきました。
そして,交通事故のような「不法行為」とは異なり、「債務不履行」に基づく損害賠償請求の訴訟では,弁護士費用の請求は一般に認められないと考えられています。
それにもかかわらず今回管理組合側の弁護士費用の請求が認められたのは一体どういう理由によるのでしょうか。
管理規約の該当条文はどうなっていたか
原告管理組合の管理規約では,区分所有者が期日までに管理費等を納付しない場合,その未払い金額について遅延損害金と「違約金としての弁護士費用」を請求できると規定されていました。これは,マンション標準管理規約(単棟型)60条2項とほぼ同様の造りになっているといえます。マンション標準管理規約(単棟型)60条2項
組合員が前項の期日までに納付すべき金額を納付しない場合には、管理 組合は、その未払金額について、年利○%の遅延損害金と、違約金として の弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対し て請求することができる。裁判所の判断
裁判所は,「債務不履行に基づく損害賠償請求をする際の弁護士費用については,その性質上相手方の請求できない」との原則を確認した上で「区分所有者は当然負担すべきものの支払いを怠っているのに対し,管理組合は当然の義務の履行を求めているだけ」だとし,弁護士費用を管理組合に負担させることは「衡平の観点からは問題」であると指摘しました。 また,管理規約の定めについては「違約金の性格は違約罰(制裁金)とするのが相当だ」とし,違約金としての弁護士費用請求の規定の存在を正当としました。 結果,弁護士費用100万円とその他滞納管理費等と遅延損害金約680万円の支払いが命じられました。その額面もさることながら,弁護士費用は滞納管理費等や遅延損害金の合計の15%ほどを占めており,その請求が無事認められたことは原告管理組合にとって大きな成果だったろうと思われます。今回の判決から一体何を学ぶべきか
裁判所は,補足として,違約金としての弁護士費用は「管理組合が弁護士に支払い義務を負う一切の費用だと考えられる」としながら,管理組合が請求する弁護士費用の範囲についても「管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)」と管理規約に定めるのが望ましいと述べました。標準管理規約の規定に対して間接的に現役裁判官が意見したともいえそうですが,管理規約の改訂の際には大変参考になると思われます。また,弁護士費用の負担関係にかかわる重要な部分ですので,管理規約の該当部分の改訂の際には,弁護士に一度ご相談されることを是非おすすめいたします。以上